ぜんぶなんとかなる

ふしみの雑文

あなたの卒論を先輩に見てもらう前に確認する、たった4つのこと

1年前に卒論を書き、そのあいだに国内学会と国際学会の予稿、論文誌、科研費書類の手伝いと一通りの書きものをして、先輩や先生に論文を直していただく機会がたくさんあった。そして今年の1月、研究室をうつった先で卒論執筆のメンターとして、後輩の論文を何度も読む機会があった。そのなかで、「先輩や先生に原稿をみてもらう」という機会を最大限に活かすためにできることとして、いくつか気付いたことがあったので、1年後にいろんな原稿や修論を書いている自分のためにメモを書き残しておく。

本稿では、誰かに(書きかけの)原稿をチェックしアドバイスをもらうときのTipsに集中する。「卒業論文の書き方」および「具体的に気をつけるべき項目 (rkmt先生のブログ)」のようなものは書かないつもりだ。それぞれについてはリンク先を参照のこと。

1. 100均で安い赤ボールペンを5本買っておく

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論文執筆の時期はよく赤ボールペンを使う。意外と持っていない人もいるものだ。卒論修論の時期は、だいたいラボの赤ペンも枯渇している。黒や青でいいやと直し始めてくれる人ならまだいいが、探してるうちに別件が入り、あなたの卒論の上には別のタスクが積まれ、思い出した頃に適当に赤を入れて直す、、というのはありがちな話だ。

直す側からみて、いちばんモチベーションが上がるのは渡された直後だ。 原稿と一緒に赤ペンを添えて渡そう。 手元にタスクがない先輩ならすぐに見始めてもらえる。忙しい先輩の移動中なにも見てもらえるチャンスは増えるだろう。普通の先輩なら、赤ペンまで貸してもらっておいて、原稿は放置というのはなかなかしづらい。早く返すためにもせめてそこそこ赤入れよ、と思ってくれる…かもしれない。自分の分、先輩2人、スタッフ2人、あわせて5本。540円で、あなたの5倍の頭脳を借りて論文を書くことができる。

2. ToDoは違う色/背景色で、コメントではなく地の文に書く

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よくToDoを、手元のメモやTeXのコメントで管理している人がいる。これはとてももったいない。図中の記号やフォントサイズ、用語の統一、図表の参照など、 あとで直す修正は、本文中に黄色ハイライトで残しておこう。

メリットはたくさんある。まず、 論文の完成度が可視化される。黄色でハイライトされたToDoが残っていれば、まだ直すべきところはある。なくなれば、提出してOK。別の場所にToDoを書くと、見た目の完成度は書くにつれてすぐにあがっていくが、内容の完成度は低いままだ。校正の段階では地味な作業が続くので達成感がないし、完成度が低くても「もうそれっぽい論文できてるし、いいかな」という気持ちになりがちだ。

「見てもらう人に、これから直す予定の箇所であることを伝えられる」 という意味もある。先輩や先生にみてもらう時に、自覚している箇所を指摘してもらうほど無駄なことはない。あなたは、もっと自分でも気づかないようなミスやアドバイス、アイデアをもらいたいから原稿を読んでもらっているはずだ。以前その人に指摘されたことが直ってなかった場合は最悪だ。少なくとも心象は悪いし、運が悪ければ次からは見てもらえないかもしれない。

原稿にtodoが残っていればこんな悲劇は発生しない。それどころか、「この章はこのくらいのtodoが残っているくらいの完成度だから、もっと全体的なアドバイスが欲しいみたいだ」「細かいミスだけど、本人はまだtodoとして認識してないみたいだから指摘しておこう」のように、原稿の現状にあわせた指導をしてもらえるかもしれない。みんながみんなそんなに時間があるとは限らないけど…。

どんな節でも必要なチェック項目に関しては、たとえば各節を作るごとに次のような定型todoを貼るのもよい。そしてできればToDo項目の前には定型のラベルを作るべき。エディタであとから検索できる。こんなふうに:

  • todo すべての図表が本文中で参照されているかチェック
  • todo グラフのキャプション対応チェック
  • todo 送りがなチェック

M1の先輩ならともかく、Dの先輩や先生にみてもらうときには「完成してから持ってきて」と言われることもあるだろう。忙しい人ほど「君の論文だけ何度も見てられるか、全部ちゃんと書けたらその時に見るから読んでくれ」というスタンスが普通。理想は当然、すべてのtodo項目が消えてから渡すことだけど、、todo項目だけ一括で削除して渡したいと思うこともあるかもしれない。ifdraftパッケージを使えば、渡すことができる。詳しくは後ほど書くつもりだが、詳しい人ならPackage Manualとか見れば使えると思う。

3. 早めに初稿を見てもらう。そのときに各章の状況を伝える

よく「まだ先輩に見てもらえるレベルに達していないから、完成したら見てもらいます」という人がいるけど、全体を隅々まで書ききった論文を渡されて、構成の変更を含むアドバイスはなかなかできないものだ。「各章の要旨と図表だけの段階で持ってきてもらえたら、もっとわかりやすい章構成にできたんじゃないかな…」と思いながら、細かい赤を入れはじめる、というのはもったいない。メンターや同じプロジェクトで卒論生を受け持っている先輩などであれば、最後に大きな変更をするハメになるよりは、枠組みの指摘は先にしておきたいだろう。

ところどころスカスカの状態でもいいから、ドラフトは早めに見せるべきだ。ただ、原稿や進捗状況がどのような状態なのかによって、必要なアドバイスも変わる。例えば、「2章は不安が残る(構成も含めた大きなアドバイスがほしい)けど、3-4章は十分よくかけていると自分では思っている(細かいミスを重点的に見てほしい)」etc。また、すでに先輩や先生にチェック済みで、大きく変えたくないという章がある場合もあるだろう。そのような場合はちゃんと伝えれば大丈夫。すべての章を何度も見てもらう時間のない先輩には、「4章できたんで4章だけ」「次は3章を」と順にお願いしていけばよい。

各章の状況が伝わってないと、どこを直して欲しいかは先輩が推測するしかない。 優しい先輩はそれでも読んでくれるかもしれないが、もしかしたら章によってムラがある原稿にだんだんイライラし「ぜんぜんダメじゃん、やり直し」と突き返されるかもしれない。気をつけるべし。

4. 紙媒体で赤を入れてもらうときには、必ず渡す人の名前と日付(提出直前なら時刻)を入れる

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先輩や先生に見てもらっているあいだにも論文はアップデートされる。中には1〜2日の時間を書けて卒論を見てくれる人もいる。帰って来た頃に、そのコピーがいつのバージョンかを把握していないと、必ず混乱する。最悪なのは、ただ印刷しただけのコピーと混ざって、行方不明になってしまうこと。まさか同じ内容をもう一度なんて頼めないし、指摘が直ってない原稿をもう一度見せたら怒られるかも。結果としてその先輩には二度とその原稿は見せられないことになる。恐ろしい…

論文執筆の終盤、先輩数人に赤を入れてもらうと、入っている赤について詳しく聞きたい時に誰に聞けばいいのかわからないことがよくある。渡す前に、表紙に赤ペンで名前と日付を入れよう。 先輩の名前を書いておくのは、直してもらった赤を大切にします、という意思表示、もしくはしっかりチェックするぞという先輩へのプレッシャーという意味もある。

時刻の記入を自動化したければ、ビルドした日付時刻を右上に入れてくれるTeXコマンドもある。(時間があったら書き足しておきます) ただし、渡す日付とビルドの日付は必ずしも一致しているとは限らない。

自身を振り返って

卒論の書き方Tips、というのは世にたくさんあるけれど、こういうメタ執筆Tipsというか、執筆作業の周辺のノウハウはあまりネットでも見かけない。先輩に教わったこともあるし、いろいろ見てもらっているうちに(先輩の原稿をなくしかけたりして…笑)意識し始めたこともある。書いているうちに意外とそこそこ価値があるんじゃないか? と思いはじめたので、メモを大幅に加筆して公開してみた。

ここまで詳しく書きだしてみると、自分の原稿執筆で意識できていないことがかなりある。やや人に頼るのが苦手なのもあって、とくに3「初稿を早めに」はなんど書いても難しい。文章にまとめたおかげで、修論の時はきっと忘れないだろう…。そもそも修論が書ける研究テーマをしっかりと構築することがいまの課題なんだけど。。

ほかTeX関連のTips。

冒頭のusepackageが並んでいるところにこれを追記した後

¥usepackage[usenames]{color}

こうやる。もっとスマートな方法があったら教えて下さい。

¥colorbox{yellow}{todo: Fig.3を本文中で参照する}
  • 投稿時間を左上に表示。

    ¥usepackage[yyyymmdd,hhmmss]{datetime} ¥usepackage[all]{background} ¥usepackage{tikz} ¥SetBgContents{ ¥begin{tikzpicture}[remember picture,overlay, color=black!60] ¥draw (-1, 1) node[below right] {¥LARGE{¥texttt{¥today~¥currenttime}}}; ¥end{tikzpicture} } ¥SetBgPosition{current page.south west} ¥SetBgOpacity{1.0} ¥SetBgAngle{0.0} ¥SetBgScale{1.0}

追記: 「分野によって、ラボによって常識が違う」ようなこともたくさんあるだろう。これから書くことは、筆者がこれから気をつけようと思っていることで、自分のラボで共有されていることでもなければ、どのラボでも通用することではない。前提として、筆者の所属するラボはバーチャルリアリティについて研究する情報系の研究室だ。論文、とくに卒論は提出までに、10回以上改稿するのがふつうで、そのあいだにメンターのM1、助教をふくむ数人の先輩に、あわせて5-6回みてもらうことになる。ドラフトが上がるのは早い人で1週間前、最終版がfixするのは多くの人が提出前夜、もしかしたら当日の朝なんてこともある…!