ぜんぶなんとかなる

ふしみの雑文

特定秘密保護法に関するメモ

特定秘密保護法が可決したので、メモしておく…。たぶん1年後くらいには、どういう議論があって自分がどう考えていたか忘れてそうなので

個人的な立場の表明

  • 肯定的な立場から

    • 情報漏洩の懸念から省庁間の情報共有のハードルが高く、意思決定や(特に同盟国との)インテリジェンス活動に支障が生じているという主張はもっともらしい。濫用しようとする権力を監視することができる仕組みされあれば、他国同様の枠組みを導入してよい理由にはなっているのではないか。
    • ビジネス上の協業はNDAがないとはじまらない。このときのNDAは「秘密を漏らしたものを制裁する」というよりは「秘密を守る約束のもとで必要な情報共有を進めて協力する」ためのポジティブなものである。現状は指摘されるようにNDAなしで企業間の協業を進めるようなものだ。
  • 否定的な立場から

    • 委員会の質問通告に対する官房長官の欠席など、議会運営ルールを無視した審議手続き上の不備が多く、審議の過程そのものが不誠実。
    • 具体的な監視機関の詳細を条文に盛り込み、これらをセットで審議するべきだった。このほうが反対する側も譲歩案を出しやすかっただろう。
    • 政治主導原則を目指してはいるものの、行政機関の長のみで30年延長可能。
    • 指定期間を超えるなどして指定解除された情報が公開される仕組みが不足している。現状では 公文書館 が受け皿となっているが、現在の公文書館はモデルにした米公文書館 のようなインターネットを通じた公開はほとんどなされておらず、閲覧上の制限も多い。
    • 修正案で追加されたが、原案は監視制度や報道機関への配慮が全くなく不誠実。

条文

特定秘密保護法案が超絶読みにくいので全文を組み直してみた

  • 特定秘密の指定

    • 行政機関の長が行う
  • 指定期間は5年まで

    • ただし行政機関の長が30年まで延長可
    • 内閣の承認を得れば60年まで延長可
    • さらに防衛・暗号・情報源・諜報活動・暗号またそれに準ずるものは無制限に延長可
  • 特定秘密の範囲は、防衛・外交・特定有害活動・テロリズムの防止。

  • 解釈において、国民の知る権利の保障に資する報道または取材の自由に十分に配慮
  • 取材行為は、公益を図る目的を有し、法令違反または著しく不当な方法と認められない限りは、正当な業務による行為とする

背景にある政策

特定秘密保護法は、外交・安全保障政策の司令塔として新設した国家安全保障会議 (日本版NSC) の機能を強化し、同盟国などとの情報共有を行うためという狙いがあった。

  • 米国のNSC(国家安全保障会議) … 大統領直下の諮問機関 (機動力重視)
  • 英国のNSC … 首相・外相・国防相などによる安全保障施策の課程を制度化 (ブレーキ重視)
  • 日本のNSC … 首相、官房長官、外相、防衛相による機動的な4大臣会合を定期的に開催。米国型といえる
  • 米国のNSA … 米国家安全保障局エシュロン。諜報・インテリジェンス活動等。日本版NSAはまだ白紙

  • 日本版NSCは、安全保障会議を改組して創設された。安全保障会議には、経産省・国交省なども含めた9名の出席が必要で、最終的には閣議によって判断するとされていたが、より機動力のある意思決定を行うために設立された。

  • 今までは情報漏洩への警戒が、情報共有を阻害していた。インテリジェンス体制の改善のため情報共有の前提となる制度とされている。
  • 機密が漏れないようにするためには、同盟国とのインテリジェンス協力のために必要
    • 秘密保護法の完備のない国とは関係国が重要な機密情報を流しにくい?

前後の世論調査

ツワネ原則

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この図がわかりやすかった。作成者は肯定的。

行政機関の長とはだれか

  • 行政機関の定義は行政機関個人情報保護法等と同様? (日本弁護士連合会のパブリックコメントより)

  • たとえば…

    (定義) 第二条  この法律において「行政機関」とは、次に掲げる機関をいう。 一  法律の規定に基づき内閣に置かれる機関(内閣府を除く。)及び内閣の所轄の下に置かれる機関 二  内閣府、宮内庁並びに内閣府設置法 (平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項 及び第二項 に規定する機関(これらの機関のうち第四号の政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。) 三  国家行政組織法 (昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項 に規定する機関(第五号の政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。) 四  内閣府設置法第三十九条 及び第五十五条 並びに宮内庁法 (昭和二十二年法律第七十号)第十六条第二項 の機関並びに内閣府設置法第四十条 及び第五十六条 (宮内庁法第十八条第一項 において準用する場合を含む。)の特別の機関で、政令で定めるもの 五  国家行政組織法第八条の二 の施設等機関及び同法第八条の三 の特別の機関で、政令で定めるもの 六  会計検査院

時事ドットコムのまとめ引用

 特定秘密保護法の要旨は次の通り。
 【目的】国際情勢の複雑化に伴い、わが国および国民の安全の確保に係る情報の重要性が増大するとともに、高度情報通信ネットワーク社会の発展に伴い漏えいの危険性が懸念される中で、わが国の安全保障(国の存立に関わる外部からの侵略などに対して国家および国民の安全を保障すること)に関する情報のうち特に秘匿が必要であるものについて、漏えい防止を図り、わが国および国民の安全確保に資する。
 【指定】閣僚ら行政機関の長は、別表に掲げる「防衛」「外交」「特定有害活動の防止」「テロリズムの防止」の4分野の情報で、公になっていないもののうち、漏えいがわが国の安全保障に著しい支障を与える恐れがあるため、特に秘匿が必要であるものを特定秘密として指定する。指定した特定秘密の範囲を明らかにするため文書などに記録する措置を講ずる。
 【有効期間】特定秘密を指定するときは、指定日から5年を超えない範囲内で有効期間を定める。5年以内で期間の延長は可能だが、通じて30年を超えるときは理由を示して、内閣の承認を得なければならない。指定期間は最長60年とするが、武器や情報収集活動の手法、人的情報源に関する情報、暗号など7項目を例外として、60年超の延長を可能とする。行政機関の長は、内閣の承認が得られなかったときは、指定情報が記録された行政文書ファイルなどの保存期間の満了とともに、国立公文書館などに移管しなければならない。行政機関の長は、指定要件を欠くに至ったときは有効期間内でも指定を解除する。
 【提供】行政機関の長は、必要と認めたときは、外国政府または国際機関で特定秘密の保護措置に相当する措置を講じているものに特定秘密を提供できる。行政機関の長は衆参両院の秘密会や、刑事事件の捜査または公訴の維持で裁判所に提示する場合などに限り、特定秘密を提供するものとする。
 【適性評価】特定秘密を取り扱う業務は、適性評価で取り扱い業務を行った場合に漏らす恐れがないと認められた者でなければ行ってはならない。行政機関の長、政務三役、首相補佐官、政令で定める者は評価を受ける必要はない。行政機関の長は、行政機関の職員や行政機関との契約事業者らが特定秘密を取り扱う業務を行った場合に漏らす恐れがないか評価を実施する。
 評価はテロリズム(政治上その他の主義主張に基づき、国家もしくは他人に強要し、または社会に不安もしくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、または重要な施設その他の物を破壊するための活動)との関係、犯罪歴、精神疾患、飲酒の節度、経済的状況などを調査する。評価は対象者に告知し、同意を得て実施する。評価対象者は書面で行政機関の長に苦情を申し出ることができ、申し出を理由として不利益な取り扱いを受けない。
 【運用基準】政府は、特定秘密の指定および解除ならびに適性評価の実施に関し、統一的な運用基準を定める。首相は基準を定め、または変更しようとするときは、有識者の意見を聴いた上で閣議の決定を求めなければならない。首相は毎年、特定秘密の指定および解除ならびに適性評価の実施の状況を有識者に報告し、意見を聴かなければならない。首相は特定秘密の指定および解除ならびに適性評価の実施の状況に関し、行政各部を指揮監督する。首相は必要があるときは、行政機関の長に資料提出および説明を求め、改善すべき旨を指示できる。
 【国会報告】政府は毎年、特定秘密の指定および解除ならびに適性評価の実施の状況について国会に報告するとともに公表する。
 【解釈適用】国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道または取材の自由に十分に配慮しなければならない。出版または報道の業務に従事する者の取材行為は、もっぱら公益を図る目的を有し、かつ法令違反または著しく不当な方法と認められない限りは、正当な業務による行為とする。
 【罰則】特定秘密を取り扱う業務に従事する者が知り得た特定秘密を漏らしたときは10年以下の懲役。特定秘密を取り扱う業務に従事しなくなった後も同様。外国の利益もしくは自己の不正の利益を図り、またはわが国の安全もしくは国民の生命もしくは身体を害すために人を欺く、暴行、脅迫、施設への侵入、不正アクセス行為などにより、特定秘密を取得した者は10年以下の懲役。特定秘密を漏らすことを共謀、教唆、扇動した者は5年以下の懲役に処する。
 【付則】公布日から1年を超えない範囲内で政令で定める日から施行。法施行後5年間で特定秘密の保有がない行政機関は、特定秘密を取り扱う権限を失う。政府は、行政機関の長による特定秘密の指定および解除に関する基準などが真に安全保障に資するものかどうかを独立した公正な立場で検証し、監察することのできる新たな機関の設置を検討し、所要の措置を講ずる。特定秘密の提供を受ける国会における保護に関する方策は、国会で検討を加え、必要な措置を講ずる。
 【別表】(特定秘密の範囲)
 (1)防衛
 ▽自衛隊の運用または運用に関する見積もり、計画、研究▽防衛に関し収集した電波、画像情報▽防衛力の整備に関する見積もり、計画、研究▽武器、弾薬、航空機の種類または数量▽防衛用暗号-など。
 (2)外交
 ▽外国政府または国際機関との交渉のうち、国民の生命および身体の保護、領域の保全その他の安全保障に関する重要なもの▽安全保障のためにわが国が実施する貨物の輸出入の禁止▽安全保障に関し収集した国民の生命および身体の保護、領域の保全もしくは国際社会の平和と安全に関する重要な情報▽外務省本省と在外公館との間の通信その他の外交用暗号-など。
 (3)特定有害活動の防止
 ▽特定有害活動による被害の発生もしくは拡大の防止のための措置▽特定有害活動の防止に関し収集した国民の生命および身体の保護に関する重要な情報または外国政府もしくは国際機関からの情報▽特定有害活動の防止用暗号-など。
 (4)テロリズムの防止
 ▽テロリズムによる被害の発生、拡大の防止措置▽テロリズムの防止に関し収集した国民の生命および身体の保護に関する重要な情報または外国政府もしくは国際機関からの情報▽テロリズムの防止用暗号-など。(2013/12/07-00:51)

西山事件

  • 毎日新聞社政治部の西山太吉記者らが、事務官との男女関係を利用した取材で知り得た機密情報を国会議員に漏洩したことで、国家公務員法違反で有罪となった事件 (1971年)
  • 森雅子担当相が「法令違反又は著しく不当な方法によるもの」の具体例
    • 刑法35条に規定をされている違法阻却事由になる不当
    • 具体的には西山事件の判例に匹敵するような行為
  • 西山事件の判例では、最高裁の判示がある

    • 取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであっても、取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びるものといわなければならない
  • 具体的なやりとり http://gohoo.org/alerts/131103/

森少子化担当相の発言

Q.特定秘密保護法案についてお聞きしたいのですが、きょう、閣議決定に向けて各党、与党内でも議論が出尽くしたと思うのですけれども、取材の自由について法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、正当な業務による行為とする。この場合、違法ではないが著しく不当な取材というのはどんな取材であると大臣はお考えでしょうか。また、「不当な」というのは、誰にとって不当だとお考えでしょうか。

A.「不当な」というのは、通常刑法35条に規定をされている違法阻却事由になる不当だと考えておりますけれども、具体的には判例がございますので、西山事件の判例に匹敵するような行為だと考えております。

西山事件における最高裁の判示:

取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであっても、取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びるものといわなければならない」

ペンタゴン・ペーパーズ

  • ベトナム戦争に関する極秘報告書
  • 執筆者の1人であるダニエル・エルズバーグがNYタイムズ誌にコピー持ち込み。
  • ニクソン大統領は国家機密文章の漏洩として記事差し止めを提訴。高裁で認められたものの、最高裁で「政府は証明責任を果たしていない」という理由で却下。修正第一条の解釈に影響を与えた。
  • ルズバーグとルッソは窃盗、情報漏洩などの罪で起訴されたが、ウォーターゲート事件の余波で不正が発覚し裁判は却下された。

わからないこと

17条を根拠に「秘密指定の権限を官僚に委任できる」とあるが、「この章で定めている」がかかるのは「第五章 適性評価」の権限のみではないのか。

行政機関の長は、政令*59で定めるところにより、この章に定める権限又は事務を当該行政機関の職員に委任することができる。

出典、参考リンクなど

まとめ

  • 法案のメリットが知りたくていろいろまとめてたら長くなっちゃった
  • 反対論者はセンセーショナルな部分の誇張が目立ち、ベースであるはずの日本版NSCとあわせた主張はほとんどなかった
  • 今回に限らず廃案目指して無駄な時間を使うより落とし所見つけてガンガン修正案で譲歩狙うほうが堅実な案件多そう